新連載!佐藤典雅さんのBizコラム
『事業戦略思考』
「人生で一番難しいのは『引き際』である」
(2012年5月17日発行第133号掲載)
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恋愛とビジネスの両方において最も難しいのは「引き際」である。恋人であれば付き合いはじめるのは簡単であるが、いつ別れるべきかを決めるのは非常に難しい。ビジネスでも新規事業に参入するのは簡単であるが、いつ撤退すべきかを決めるのは難しい。まさに「行きはよいよい帰りは怖い」の歌どおりだ。特にビジネスにおいて、事業拡大は評価されやすいが、事業撤退は評価されにくい一面を持っているからやっかいだ。新しい事業を展開すればボーナスに反映されやすいが、現在の赤字事業の出血止めを行っても給与は上がらない。しかし本当は、将来入る「かも」しれない金よりも今実質的に流出している金をくい止めるほうが大切なはずである。
バブル後に町工場がたくさん破産した時、多くの経営者が多額の借金に追い込まれた。また伝統企業の経営は内側で破綻しているにもかかわらず撤退しないで粉飾に走ってしまう。老舗高級料亭であった船場吉兆は破綻している経営を乗り切ろうとして食品の表示偽装にまで走ってしまった。賞味期限偽装をしてしまった赤福や品質表示偽装を行ったミートホープも同じである。これらは内側で事業モデルそのものが破綻している。時代は変化しているが内部が変化していないと、事業モデルは新しいビジネス環境に耐えられなくなってくる。この場合は事業を撤退するか、古い経営陣の撤退が必要であった。しかしこれらは決して他人事ではない。どの企業にも起きうる問題である。特に上場企業は常に事業拡大を求められるので簡単に撤退することができない。その一番わかりやすい例がライブドアの決算粉飾だ。
実は事業の撤退を難しくしている根本的な理由は「感情の投資」にある。私も事業が破綻しているケースに立ち会う時がある。そこの経営者になぜもっと早く撤退しなかったのかと聞くとたいてい、「ここまで来たから頑張ればなんとかなるかと思った」と言う。しかし、ここまで投入してきた金額はすでに投入し終わった額なのでただちに「損切り」をすることができる。しかし新たに融資を受けてゲームを続行すると、それは新たなリスクを増やすことになる。
私の経験では、一度給与支払いが遅れた会社は立ち直ることが非常に難しくなる。なぜならそれは社員の頑張りが足りないからではなく事業モデルそのものに問題があるからだ。借金を抱えている人物に金をやってもそいつが再び借金をつくってくるのに似ている。借金に問題があるのではなく借金をつくる本人の体質に問題がある。だから「収支のバランスを」というテレビ広告には根本的な欠陥がある。そもそも収支のバランスが悪いから消費者金融に走るのである。同じように赤字事業にいくら増資を行ってもスキームそのものを見直さなければ意味がない。
話は横にそれてしまったが、撤退が本当に難しいのはそれまで投資してきた感情に足を引っ張られるからである。関係が破綻している恋人と簡単に別れることができないのと同じ理由である。第三者として客観的に見れば今すぐ引いたほうがよいのだが、感情的に絡め取られてしまっている。だが引き際を誤ると事業も恋人関係も泥沼状態になってしまう。日本自体も太平洋戦争に踏み切ったはいいが撤退のタイミングを誤ってしまった。もっと早い時点で白旗を揚げていればアメリカに原爆を落とさせる口実を与えることはなかったと思う。このように引き際のタイミングを誤ると惨事を招いてしまう。だから常に感情を抜いて冷静に引き際を見極めるのはよりよい未来のために大切だ。
能 書
投資した感情の回収は
できない。 |
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感情を入れずに
ソロバンを弾け。 |
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佐藤典雅(1400grams Inc. 代表)
ヤフー・ジャパン営業企画を経て、女性市場において圧倒的なブームを創出したブランディング社の事業戦略室長を勤める。東京ガールズ・コレクションからキットソンまで手がける。現在はコンサルとして日本とアメリカで活動しており、国際的なファッションショーであるWORLD RUNWAYのディレクターとしても活動中。『給料で会社を選ぶな!』を中経出版から発売。「ノリブロ」で検索。
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